Sample List


くるくる
 イクミ
雨ときどきロックンロール
 ウルー×双翼
彼女らの流儀
 いち×粉コロモ
Goodbye our god.
 左都×音羊
コオロギビーツ!
 文月そら
Allegro Tempo giusto
 アルエム×*
世界を謳う、混沌の歌姫。
 ドラゴニズム
風邪の君
 伊音×ヤナギ
空き缶と雨の日の私
 りんしょく
Goodbye Melancholy
        , Goodbye

 匿名希望×占石
ハッピーエンド
 けんごち
Our Song
 kobax×Anemos
Give up the ghost.
 橘
Way Up
 shuta
誰のための歌?
 山鳥
卒業
 鈴木このり×れもたろ
ランニングハイ
 すなふ
simile
 久慈光樹
Not Liar, Not falseNess.
 k.seiru×都岡さち

Ode to Joy
 風見由大×アリ

隣り合わせのサンクチュアリ
 広瀬凌×海底
Ode to Joy
 風見由大×アリ



 岩沢広道は、暗い部屋にいた。
 正確には、閉じたカーテンを開けば、窓の外はまだ明るいはずだ。だが、彼にはその暗さが心地良い。光は見たくなかった。
 家には岩沢の他には誰もいない。この時間、彼の妻は働きに出ている。
 夫婦が住むのは木造平屋建てのちっぽけな家。それも借家で、さらに言えば家賃も滞納している。
 岩沢はまだ五十の少し手前で、一般的には働き盛りと言われる年頃だ。だが、岩沢家は今では妻のパート収入がすべてだった。岩沢はもう何年も仕事をしていない。
 彼はカーテンの隙間から漏れてくる光から逃げるように、台所へと向かう。冷蔵庫を開け、ガラスの瓶に入った安酒を口にする。いくら飲んでも酔えない。それでも、彼には他にすることがない。

 昔はこうではなかった。
 岩沢は地元では名の知れた会社に勤め、上司の覚えもよく、仕事に打ち込み、家庭を思う一人の若者だった。結婚して三年目に妻は待望の子供を授かった。女の子だった。
 二人は相談して、正美と名付けた。心身ともに正しく、美しく育って欲しい。平凡だが、そう期待を込めた。

 その日の朝、小学校に入ったばかりの正美は熱を出した。そんな日に限って、あいにくと妻は数年ぶりに会う友人と一緒に前日から旅行に行っていた。
 正美は心細いせいか、お父さん行かないでと、ぐずる。朝一で妻の泊まる旅館に電話をして早く帰ってくるように頼んだが、それでも数時間は後になるだろう。
 岩沢は大切な仕事を抱えていて、休むわけにはいかなかった。「もう一年生なんだから、お母さんが帰ってくるまでは一人でお留守番できるよな」と言い聞かせる。
 愛娘の不安そうな顔に後ろ髪を引かれながらも、それを振り切るように家を出た頃には、いつもより遅い時間になっていた。
 車に乗り込み、エンジンキーをひねる手は少し焦っていた。早く出社しなくては、と気がはやっていたことは否定できない。
 そして──事故を起こす。
 岩沢が撥ね飛ばしたのは、まだ幼い女の子だった。後から、幼稚園に入ったばかりの子だと知った。
 母親の目を離れ、ひとり道路に飛び出した少女を岩沢の車は撥ねた。衝撃はほとんど感じなかった。まるでゴム鞠のように、少女の体はぽんぽんとアスファルトの上で弾んだ。
 その光景は写真のネガのように、岩沢の瞼の裏に焼き付いた。
 少女の母親の叫び声が遅れて聞こえてきた。