Sample List
くるくる イクミ 雨ときどきロックンロール ウルー×双翼 彼女らの流儀 いち×粉コロモ Goodbye our god. 左都×音羊 コオロギビーツ! 文月そら Allegro Tempo giusto アルエム×* 世界を謳う、混沌の歌姫。 ドラゴニズム 風邪の君 伊音×ヤナギ 空き缶と雨の日の私 りんしょく Goodbye Melancholy , Goodbye 匿名希望×占石 ハッピーエンド けんごち Our Song kobax×Anemos Give up the ghost. 橘 Way Up shuta 誰のための歌? 山鳥 卒業 鈴木このり×れもたろ ランニングハイ すなふ simile 久慈光樹 Not Liar, Not falseNess. k.seiru×都岡さち Ode to Joy 風見由大×アリ 隣り合わせのサンクチュアリ 広瀬凌×海底 |
誰のための歌? 山鳥 餓え死にか、凍え死にだと思った。オリオン座だけ知っていたから、今日も目で追いかけた。リアル星空って久しぶりだなー、ちょっと嬉しいなー、なんて思ってられたのは最初だけだった。エラい寒くてお腹がすいた。でも、あたしにはどうにもできないのだ。どこぞの茂みに寝転がされても、ただ頭の上を見てるしかできないのだ。実を言うと寒いのもお腹がすいたのも、もうない。漏らすものもない。 本当ひどい有様で、なんでこんな目にと思って、そりゃ、一人でいたらなんにも出来ないで、こんな有様になっちゃう体たらくなのが悪いんだよねって思って、またまたごちゃっと色々押し寄せてくる。涙が出そうになって、出なくて、鼻のつけ根がぎゅーっと痛くなった。 いやね、未練たらしいけど、納得はホンキでしてるんだよ。してるんですよ。お母さんの選んだ道は正しい。お母さんが幸せになってくれたらホントに嬉しい。ご本当にめんなさい。それでもおゆうぎ会のシミだらけのドレスや、お母さんのベージュのスーツやファンデーションの匂いとか思い出して、ぎゅーってなる。椅子で居眠りしたお母さんの、つけ根だけ白くなった髪が、月の灯りで白くきらきらしているのを思い出す。痩せて張りのない手の甲を思い出す。笑顔の端の濃いシワも。 背の高い草の先に細かい水滴がつき始めたくらいだった。脈絡もなく、タモリとかビートたけしとかさんまとか坂東さんが脳裏をよぎった。どういうことか分からない。仕方ないので坂東さんの卵ネタなど眺めているとき、ハッとした。 これはひょっとして走馬灯というものではないか? トークがこんな大事なときでさえしょうもなくて、笑いたいなと思った。で、身体中が痙攣しているのに気づいた。これは間もない。とうとうだった。ごめんなさい。お母さんがいたから産まれてこれてさ、だからお母さんが自由にしていいんですよ。それなのに今までずっと。 「うわっ、こんなトコにいた」 突然に、声。 「心理的盲点ってやつね。こんな場所に出てきたらすぐ目に付くだろうって。いや、あなたも悪いのよ? かくれんぼじゃないんだから」 女の人だ。歳はどのくらいだろう。若いと思う。それよりこんな格好を見られたくない。どうしよう。 迷ううち、顔を覗き込まれる。すごく嫌な目だった。綺麗な人だったけど、覚えのある風な、どんな気持ちになるとみんなはこんな目をするんだろう、覚えのある、嫌な目だった。 「ちっ」 舌打ち。 「ガン無視かよ」 さらにため息。 「そうしてまた死ぬつもり? 諦めて動きもせずに、ただ座して……って、座ってすらないか」 苛立ちを隠そうとしない声に、なにかは言おうと口を開いて、上あごのざらりとした感触に気持ち悪くなる。でも吐くものがない。喉が痙攣する。女の人の声が荒くなる。 「やっと分かったわ。あなたもアホなのね。それも方向性の違う救いようのないアホ。精神的な向上心の無い者はアホよ」 光と服の白がドぎつくなって、黒色が濃くなって、目の前が白黒に近づいていく。声が遠く近くなる。自分がどうなっているのか分からなくなる。 |